「この仕事はAさんしか分からない」と気づくと、すぐマニュアル作成やシステム導入を考えがちです。しかし、担当者の頭の中には、通常手順だけでなく、取引先ごとの違い、間違いに気づくポイント、迷った時の相談先が含まれています。画面操作だけを写しても、判断は引き継げません。
まずは担当者を問題の原因として扱わず、仕事を守ってきた工夫を聞きます。属人化の解消は、その人の価値を減らすことではありません。判断を共有し、本人が休める状態を作ることです。
この記事でわかること
- 担当者を責めない聞き方
- 通常・例外・判断の分け方
- 引継ぎできる一枚の作り方
「全部教えてください」と聞かない
業務名だけを挙げて説明を求めると、長すぎたり、大切な例外を忘れたりします。直近の一件を題材にします。
最初の質問
この仕事が始まる合図は何ですか。
最初に何を確認しますか。
どの情報をどこから受け取りますか。
終わったと判断する状態は何ですか。
次に誰へ渡しますか。
説明と実際の手順が違っても、間違いと決めません。「なぜここでは順番を変えましたか」と理由を聞きます。
一枚を5つの欄に分ける
業務を次の欄へ整理します。
- 入力:依頼、注文、書類、電話など開始時に届くもの
- 通常手順:毎回ほぼ同じ作業
- 判断:金額、期限、条件など人が確認する点
- 例外:不足、誤り、特別対応、止まる場面
- 出力:完成物、記録、次の担当への引継ぎ
矢印のきれいな図を作る前に、箇条書きで十分です。分からない場所は空欄ではなく「要確認」と書きます。
例外を聞く質問
通常手順より、例外にノウハウが隠れています。
- どんな時に作業を止めますか
- 数字や名前の誤りにどう気づきますか
- 急ぎの依頼は誰が判断しますか
- 取引先によって違う点はありますか
- やり直しになった最近の例はありますか
- 自分が休む時、誰へ何を伝えますか
失敗談を評価に使わないと先に伝えます。目的は責任追及ではなく、次の人が同じ場所で止まらないようにすることです。
判断と作業を分ける
「見積を作る」という工程にも、転記、計算、条件確認、値引き判断、承認があります。転記は仕組みで助けやすくても、取引関係や例外を踏まえた判断は人に残す場合があります。
分け方の例
作業:商品と数量を一覧へ入力
確認:単価と納期が最新か照合
判断:通常条件と違う場合に責任者へ相談
出力:確認済み見積を営業担当へ渡す
どこをデジタル化するかは、この分解後に考えます。「業務全体を自動化」とまとめると、判断まで仕組みに押し込んでしまいます。
別の人が一件だけ試す
聞き取り後、別の担当者が一件を処理し、元の担当者が横で見ます。できなかったことより、資料に書かれていなかった情報を記録します。
- 用語が分からない
- 保存場所が見つからない
- 判断基準が曖昧
- 権限がなく画面を開けない
- 例外時の相談先がない
試行後に一枚を直し、もう一度確認します。最初から完璧なマニュアルを目指しません。
担当者の価値を残す
整理した内容には、誰が確認したか、いつ更新したかを書きます。担当者の工夫を匿名の会社知識として奪うのではなく、作成・確認への貢献を明確にします。本人には、単純な引継ぎ質問を減らし、改善や判断に時間を使える利点を説明します。
よくある失敗
一つ目は、退職直前にすべて聞くことです。時間がなく、確認もできません。平常時に一業務ずつ行います。二つ目は、手順だけを書いて例外を省くことです。
三つ目は、文書を作って終わることです。別の人が試します。四つ目は、整理前にツールを選び、その入力項目に業務を無理に合わせることです。
更新を一人へ戻さない
作成後の文書を元の担当者だけが更新すると、再び属人化します。業務責任者と実務担当の二人以上が見直し、変更理由と日付を残します。取引条件や社内ルールが変わった時に、誰が修正を始めるかも決めます。
半年ごとなど形だけの定期確認より、大きな例外が起きた時、新しい人が迷った時、使う帳票が変わった時を更新の合図にします。実務で気づいた人が修正案を出し、責任者が確認できる流れにします。
聞き取りチェックリスト
- [ ] 直近の一件を題材にした
- [ ] 開始と終了を確認した
- [ ] 通常・判断・例外を分けた
- [ ] 止める条件と相談先を聞いた
- [ ] 別の人が一件試した
- [ ] 作成者と更新日を残した
- [ ] デジタル化する工程を後から選んだ
属人化した業務には、会社が長く積み上げた知恵があります。担当者の説明力と判断力を尊重して一枚に整理すれば、引継ぎだけでなく、どの面倒な作業から改善するかも見えるようになります。
属人化した業務の整理を相談したい方へ
「担当者へ何を聞けばよいか分からない」「整理した後の改善方法まで考えたい」という方は、アナデジラボのきゃんせへご相談ください。現場の知恵を大切にしながら、引継ぎと業務改善を進める方法を一緒に考えます。
よくある質問
担当者が忙しくて聞き取り時間を取れません。
業務全体を一度に聞かず、実際の一件を処理する横で開始から終了まで確認します。
すべてをマニュアル化する必要がありますか?
頻繁に行う通常手順、止まりやすい例外、誰へ相談するかを優先し、細部は必要に応じて追加します。
自動化ツールはいつ選びますか?
入力、判断、出力、例外が整理され、変えたい工程を特定してから比較します。